LDL(悪玉)コレステロールが高いと危険
血中のLDL-コレステロール値が高いと、新たなプラーク破裂が誘発され、急性冠症候群(ACS)の再発リスクが増加します。
ACS再発リスク
急性冠症候群(ACS)は、再発リスクが高い疾患です。
これまでの研究では、十分な治療を行っても、10%以上の方が再発すると報告されています。
では、そのリスクに対して、どのように予防していけば良いでしょうか。
再発のメカニズム
ACSの再発は、今回カテーテル治療を行った部位が、また悪くなってしまうことが原因のこともあります。
しかし、それだけでなく、他の部分に新たにプラークができたり、すでに存在している小さいプラークが進行して、再発の原因になる可能性もあります。
再発は、特に1年以内に起こる可能性が高いことがわかっています。
ACSの再発予防には、動脈硬化を進行させる「危険因子」の管理が重要です。
再発予防のポイント
動脈硬化を進行させる危険因子には、加齢、コレステロール、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙などがあります。
加齢が危険因子ということは「今まで大丈夫だったから」は、通用しなくなることを意味します。そして、その他の多くの危険因子は、治療することができます。医師の指示に従った適切な薬物療法と、生活習慣の改善が重要です。
なかでも、LDL-コレステロール、すなわち悪玉コレステロールのコントロールが、動脈硬化の進行を抑え、再発を予防するために最も重要です。ACSを発症した患者さんは、一般の方よりも厳格なコレステロールの管理が求められます。
LDL-コレステロールがしっかりと下がった患者さんは、そうでない患者さんよりも、3年後の死亡率が5分の1程度まで下がったという報告があります。
薬物療法により、悪玉であるLDL-コレステロールを低下させ、厳格に管理することと、生活習慣の改善が不可欠です。
LDL-コレステロール改善は、何より「薬」
- 再発予防には生活改善も必要ですが、十分な量の内服薬(スタチン系薬)をきちんと服薬することが最も重要です。
- 内服薬でLDL-コレステロールが十分に低下しない場合は、注射製剤の併用を早期に検討する必要があります。
- これらの薬による、再発予防効果やプラークの安定化が、多くの研究により示されています。
脂質低下療法に伴う治療薬
LDL-コレステロールを低下させるために用いられる代表的な内服薬は、スタチンです。スタチンは、体内でのコレステロール合成を抑える作用があります。急性冠症候群(ACS)の患者さんは、発症後できるだけ早いタイミングから、強力なスタチン製剤を十分な量、飲み始めることが、治療指針によって強く推奨されています。スタチンの中には、グレープフルーツジュース(加工品を含む)と一緒に飲むと、薬が効きすぎたり、副作用が現れやすくなるものがあります。必ず、医師または薬剤師に確認をしてください。
患者さんによっては、スタチンに加えてエゼチミブを併用します。エゼチミブは、小腸からのコレステロールの吸収を抑える作用があります。効き方の異なる2種類の薬を合わせて服用することは、効果的なLDL-コレステロールの低下につながります。
服薬に関する注意点
下記の内服薬を指示通り服薬することで、ACSの再発率が低下します。命を守る大切な薬ですので、安易に中止することがないように、継続して内服していきましょう。もし薬を飲み忘れた場合は、気がついたときに、できるだけ早く飲んでください。
内服薬でLDL-コレステロールが十分に低下しない場合は、注射製剤の併用を、なるべく早く検討する必要があります。
併用を行うことによる、再発予防効果やプラークの安定化が、多くの研究により示されています。
LDL-コレステロール低下に用いられる代表的な薬
内服薬
スタチン系薬
治療の中心となる最も大事な薬です。筋肉痛や肝機能障害などの副作用が無い限り、減量や休薬することなく継続することが必要です。
エゼチミブ
コレステロールの吸収を抑える薬です。
スタチンと併用で用いられます。
注射薬(PCSK9阻害薬):基本的には内服薬と併用します
レパーサ
(エボロクマブ)
冠動脈の危険なプラークを安定化させたり、病気の再発率を低下させる効果が報告されています。ご自宅で使う自己注射製剤です。
レクビオ
(インクリシラン)
持続性に優れており、半年に一度程度の注射でLDL-コレステロールを低く保つことが期待できます。病院を受診した際に投与する薬です。
ACS後の患者さんにとって、LDL-コレステロールは低ければ低いほど望ましく、それを維持することがとても重要です。
急性冠症候群(ACS)脂質管理 連携パス
55mg/dL未満の早期達成と維持を
退院後の自己管理・生活改善
- 自宅で毎日血圧を測定し、記録することが大切です。受診時にこの手帳の記録を担当医に見せて、内服薬の調整を相談して下さい。
- 血圧・血糖値が目標値に到達しているか、受診の際に担当医と共に確認することが大切です。
- 禁煙は絶対に必要です。
急性冠症候群患者における管理目標値
- LDL-コレステロール
- 55mg/dL未満
- 家庭血圧値
- 125mg/75mmHg未満(75歳以上では135/85mmHgも考慮)
- 血糖管理目標
- HbA1c 7.0%未満
再発予防における注意点<食生活>
- 「コレステロール・飽和脂肪酸」を控え、「不飽和脂肪酸・食物繊維・抗酸化成分」を摂るのが基本です。
再発予防における注意点<運動>
- 運動には、HDL(善玉)コレステロールを増やしたり、中性脂肪を減らす効果があります。
- 散歩などの有酸素運動を毎日継続することが重要です。
運動や身体活動の促進
急性冠症候群(ACS)の再発予防には、薬物療法に加えて、運動や身体活動の促進も重要です。適切な運動習慣を身につけることは、再発予防につながります。医師と相談しながら、ぜひ継続していきましょう。
運動療法のポイント
運動療法は、体調に合わせて、無理をせず取り組むことが大切です。
ご自身で取り組めるものとしては、ウォーキング、スロージョギング、水泳、エアロビクスダンスなど、全身を使った中強度の運動、すなわち有酸素運動です。
1回30分~60分、週5回以上を目標に行うようにしてください。
心臓リハビリテーション
心臓リハビリテーションとは、心臓病になった方に対するリハビリテーションであり、心臓の機能と身体機能の回復や社会復帰、再発予防を目指すプログラムです。
運動療法に加えて、学習活動・生活指導・相談(カウンセリング)などが含まれています。
もちろん、ACSを発症した皆さんも、このプログラムの対象です。
どこで、どのようにして心臓リハビリに参加していくのか、ぜひ主治医と相談してみてください。